わたくしは、母を今回の裁判に証人として立たせねばならなかつたヽめ、中央、南の両アルプスの間を流れる天竜川の岸辺、伊那谷の里へ、再び、おんぼろジープに乗せ、孫たちと共に連れていつてあげました。
さうしましたら、三歳になった娘文(かざる)は、雄大華麗な信州の秋の風景には眼もくれようともせずに、
「ウァーッ、綺麗!」
「ウァーッ、綺麗!」
そんな歓声を連発しては、そこら辺の小さな草花を見付けては摘みとつたり、山の匂ひのする土くれを掌にすくひあげて遊ぶばかりなのでした。
昭和五十九年五月三十一日 夜九時